【はじめに】
前研究では、私とのコミュニケーションが困難であった運動性失語症患者に対し、
「引き金」を探るきっかけとして記憶を辿る重要性を報告した。
他人が相手との距離を縮めるためには、共通の記憶を辿ることで共感・共有が発現し
視線や表情の同調を生み出すことであると考える。よって、お互いを受け入れ、
信頼へと繋げる重要なコミュニケーションツールは「共通の記憶」を探る行為ではないかと考察した。
そこで、今回は、自発的な動作の発動がおこるための介入方法を検討し考察したのでここに報告する。
【対象】
対象者:80代 女性、診断名:左視床出血(右片麻痺,運動性失語症)、介護度:要介護4
現病歴:H24 左視床出血 、A病院へ救急搬送
趣味:料理、陶器集め、家庭菜園 であった。
ADL:ADL全般に重度介助。日中は座位でテレビをみて過ごされることが多く、
家族との会話は少ない。外出する機会は病院受診のみ。
状況:自分が納得しないと行動に移さない。
発語は少ないが、視線を合わせ表情やジェスチャーで意思を伝えようとする。
【方法】
対象者が映っている過去の思い入れ深い静止画・動画、全く他人の動画の
計3種類をリハビリテーション前に見てもらう。(全て別の日に設定)その後の表情・発言・活動性の変化を観察する。
1.旅行先で撮った写真。
2.脳出血発症直後のリハビリ動画(歩行)。
3.他人の歩行動画。
【結果】
①自己の静止画・動画を見た後は、ともに笑顔がみられ懐かしい思い出に関する発語があった。
②の動画をみた後は涙を流され、過去の自分の奮闘していた姿に歓喜し、自己奮起がみられ動作の自主性も見られた。
③他人の動作を見た後は、表情・発言・活動性ともに変化はみられなかった。
【考察】
介入当初、自発的な動作や意欲がみられず、
リハビリテーション介入において難渋した原因として、対象者の生活は、発症して数年、日中自宅内で座位にて過ごし、
理想や目標とする運動のイメージがないことが考えられる。
リハビリテーション介入において重視すべきと言われる「目標」は一概に言われているが、
具体的な策略としては漠然としている。
今回は、なりたい姿を想像するには、対象者と一緒に過去の自身の動画をみるということが役に立った症例であった。
対象者自身の過去の動画を観ることが、記憶を用いた知覚経験の再現となり、
加えて、過去の行為のもつ意図をすぐに理解できたことが、
笑顔や向上心のある発言・随意的な運動の活性化に繋がったのではないかと考える。
更に、運動の想起には、視覚・聴覚・体性感覚などの統合が必要であることからも、
観察したものが動画であることに意味があると考える。
また、対象者は視線を映像へ向けると同時に、一緒に見ている私(セラピスト)の表情にも関心を向けている姿が観察された。
対象者は、私と注意を共有することによって、私(セラピスト)の意図を理解・共感しようとし、
私(セラピスト)の表情そのものが扁桃体を活性化させたことで、意欲の向上に繋がったのではないかと考える。
我々は、身体機能の改善を図るだけではなく、冒頭で述べたように、
視線や表情の同調が信頼関係の形成に繋がることを忘れてはならない。
セラピストの微笑みも脳機能にとっては重要な環境要因であり、
もう一度自身の立ち振る舞いについて考える必要がある。
対象者自らが、「私や周囲の家族を笑顔にさせている」と認知できたとき、
社会に対して対象者自身が役に立っているということを自覚し、そのことが報酬系を作動させることで目標ができ、更なる意欲の向上に繋がるのではないかと考える。
おうちでリハビリ「ラシクアーレ」 田上綾香
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研究まとめ
健康運動教室「健康トレーニングin月出」発足について
おうちでリハビリ ラシクアーレ 理学療法士/田中聖也
2015年熊本市東区月出にて健康運動教室「健康トレーニングin月出」を月に2回開催
・発足することになったのか
・発足するまでの経緯
・何がもたらせたのか
維持期片麻痺患者の歩行における短下肢装具の足関節固定と足関節可動による比較検討ゲイトソリューション
歩行リハビリセンターホコル 理学療法士/浅井清尊
通所介護の臨床において、脳血管障害者の短下肢装具の多くが障害を発症したときに作成した物であり、数年経過した現在では身体に適合しないケースが多数存在する。そこで本研究ではゲイトソリューション(以下GS)とシューホーンブレイス(以下SHB)をそれぞれ装着して歩行させ、その動作をカメラにて撮影し、歩容の違いについて比較した。
当施設利用時の歩行計測とその比較検討
歩数計速の有用性
歩行リハビリセンターホコル 理学療法士/佐藤文彦
一般的に身体活動量が多い者は疾患の罹患率や死亡率が低く、運動はメンタルヘルスや生活の質の改善に効果があるとされている。当施設来所時に万歩計を取り付け、利用終了までの3時間の歩数を計測し、今後の目標向上心を賦活できるように来所毎の記録に加え有効記録歩数を500歩以上とルール付けし、1回目と2回目の歩数を対応のあるT検定にて比較した。
潜在的な随意制御と反射調節が異常歩行に与える影響 姿勢調節チューニング装置
BASYSの有用性
歩行リハビリセンターホコル 理学療法士/奥村祐子
介入 BASYSのプラットホーム上で対象者が足関節を意識した重心前後移動を実施する。介入1をインフェイズモード、介入2をアンチフェイズモードとし、各モード異なる日に実施した。2.評価 介入前後において自然歩行を行い、固定撮影する。その後、動画解析ソフトを用いて①ストライド長②立脚相時間③遊脚相時間をそれぞれ非麻痺側、麻痺側から抽出し介入前後を比較した。
見られる私(セラピスト)
おうちでリハビリ「ラシクアーレ」 理学療法士/田上綾香
【前研究】失語症のある方とのコミュニケーションに難渋したケースについて、会話が進むきっかけとなったのが「記憶を辿る行為」であったことを報告。森岡(2014)は、以下省略「目の観察は心を読みとるために重要である」と定義。コミュニケーションツールは、「共通の記憶」を探る行為なのではないかと考えた。今回課題として随意的な行動の発現を起こす為、対象者が映っている過去の思い入れ深い静止画・動画、全く他人の動画の計3種類をリハビリテーション前に見てもらう。その後の、表情・発言・活動性の変化を観察した。
マニュアルとハラスメントについて
歩行リハビリセンター HOKORU 理学療法士/浅井清尊
今日のわが国の社会情勢を鑑みると、経済効率優先の裏面として社会モラルの低下が強く問われており、職業倫理感の不足や欠如に起因すると思われる事故や事件が表面化し、職業倫理破壊が始まったと言われている。そのような状況でどのように新社会人教育を行うと一人前として患者への対応が出来るようになるのか、また教育する側とされる側のメンタルストレスを減少させ効率よく教育できるのか。今回はマニュアル作成から実行を通して弊社の新人トレーナーのメンタルストレスの変動について報告する。
懐かしさと私
おうちでリハビリ「ラシクアーレ」 理学療法士/田上綾香
今回、右片麻痺と運動性失語症のある患者を担当し、コミュニケーションが上手くとれず、リハビリテーション介入に困難を要した。私とのコミュニケーションを避け、表情が硬く、自発的な運動の呼びかけに対し首を横に振るなどの拒否反応が頻回にみられた。しかし記憶を辿れるような介入を期に笑顔や感動を表現するなど感情の豊かさがみられ始めた。次第に自発的な行動もみられたため、この行動変容の意味づけを考察したのでここに報告する。
他職連携の円滑化を図るには〜自宅間取り図を介して〜歩行リハビリセンターHOKORU 社会福祉事/小平千遥
今年度の介護報酬改定により自宅訪問による生活状況の確認が義務つけられた。そこで弊社は独自に自宅訪問調査票に工夫を加えた。利用者が社会参加を果たせるために日常生活の改善・QOLの向上を強く意識したプログラムを理学療法士に依頼し、生活相談員が自宅訪問調査を行っても利用者の状況を把握していることから自宅での効果判定をスムーズに遂行することが可能である。今回このような効果の見られた点について、生活相談員としての介入方法も含め自宅訪問調査の工夫を紹介する。