【はじめに】
今回、右片麻痺と運動性失語症のある患者を担当し、
コミュニケーションが上手くとれず、リハビリテーション介入に困難を要した。
私とのコミュニケーションを避け、表情が硬く、
自発的な運動の呼びかけに対し首を横に振るなどの拒否反応が頻回にみられた。
しかし記憶を辿れるような介入を期に笑顔や感動を表現するなど感情の豊かさがみられ始めた。
次第に自発的な行動もみられたため、この行動変容の意味づけを考察したのでここに報告する。
【対象】※画像はイメージです。
対象者:80代 女性、診断名:左視床出血(右片麻痺,運動性失語症)、介護度:要介護4
現病歴:H24 左視床出血 、A病院へ救急搬送
趣味:料理、陶器集め、家庭菜園 であった。
ADL:ADL全般に重度介助。日中は座位でテレビをみて過ごされることが多く、家族との会話は少ない。
外出する機会は病院受診のみ。
状況:自分が納得しないと行動に移さない。目を見て意思を伝えようとしない。
会話中、上手く意思が伝わらないと感じた場合、娘さんの方へ顔を向け言語化してもらおうとする仕草がみられる。
【方法】
当初、身体機能やADL能力向上が目標設定であったが目立った効果は得られず、動作意欲が低下していく一方だった。
そこで彼女の過去を探ってみたところ思い出深い場所が浮上し、
話題作りも兼ねてその場所へ研究者自身が休日に足を運びその模様を会話に挙げたてみた。
その結果、患者は深く感動され、「思い出の場所へ外出する」ことに目標を変更したことで、
動作に関しても意欲的に取り組めるようになった。
【結果】
会話の中で共通の記憶を探したことで、表情が豊かになり発語頻度が増えた。
更には動作の自主性も見られ始めた。
【考察】
介入当初、コミュニケーションに難渋した原因として、以下の2つが考えられる。
1.一方的に、セラピストが運動の目的・動作を説明し、相手の理解や発言を待たずに介入していたこと。
2.個人的特性を理解せずに、ステレオタイプ思考で会話しようとしていたこと。
そこでとった対策としての記憶を辿るテーマづくりとセラピストの実行動が
患者にとって予測できない報酬であったと示唆された。
それは、ドーパミン神経細胞の興奮が扁桃体の報酬の処理に働くため、
快の情動が生まれ信頼関係の形成に繋がったのではないかと考える。
また、「もう一度外出したい」という強い想いと懐かしい過去のエピソード記憶の整合性が行われ、
意欲的な行動に繋がったと推察する。更に記憶・学習と情動の回路は密接な関係にあることからも、
記憶をきっかけとした行動の自発性が発現したのではないかと考える。
また、信頼関係の形成から会話が弾んでくると、「視線が合う」「表情が豊かになる」といった視覚からの
情報が角回に入力され、ブローカー野を賦活したのではないかと考える。
リハビリテーション介入において重視すべきと言われる「相手の心を掴む」は一概に言われているが、
具体的な策略としては漠然としている。その「引き金」を探るきっかけに記憶を辿るということが役に立った症例であった。
全くの他人が相手との距離を縮めるためには、
共通の記憶を辿ることで共感・共有が発現し視線や表情の同調を生み出すことであると考える。
よって、お互いを受け入れ、信頼へと繋げる重要なコミュニケーションツールは「共通の記憶」を探る行為ではないかと考える。
おうちでリハビリ「ラシクアーレ」 田上綾香
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研究まとめ
健康運動教室「健康トレーニングin月出」発足について
おうちでリハビリ ラシクアーレ 理学療法士/田中聖也
2015年熊本市東区月出にて健康運動教室「健康トレーニングin月出」を月に2回開催
・発足することになったのか
・発足するまでの経緯
・何がもたらせたのか
維持期片麻痺患者の歩行における短下肢装具の足関節固定と足関節可動による比較検討ゲイトソリューション
歩行リハビリセンターホコル 理学療法士/浅井清尊
通所介護の臨床において、脳血管障害者の短下肢装具の多くが障害を発症したときに作成した物であり、数年経過した現在では身体に適合しないケースが多数存在する。そこで本研究ではゲイトソリューション(以下GS)とシューホーンブレイス(以下SHB)をそれぞれ装着して歩行させ、その動作をカメラにて撮影し、歩容の違いについて比較した。
当施設利用時の歩行計測とその比較検討
歩数計速の有用性
歩行リハビリセンターホコル 理学療法士/佐藤文彦
一般的に身体活動量が多い者は疾患の罹患率や死亡率が低く、運動はメンタルヘルスや生活の質の改善に効果があるとされている。当施設来所時に万歩計を取り付け、利用終了までの3時間の歩数を計測し、今後の目標向上心を賦活できるように来所毎の記録に加え有効記録歩数を500歩以上とルール付けし、1回目と2回目の歩数を対応のあるT検定にて比較した。
潜在的な随意制御と反射調節が異常歩行に与える影響 姿勢調節チューニング装置
BASYSの有用性
歩行リハビリセンターホコル 理学療法士/奥村祐子
介入 BASYSのプラットホーム上で対象者が足関節を意識した重心前後移動を実施する。介入1をインフェイズモード、介入2をアンチフェイズモードとし、各モード異なる日に実施した。2.評価 介入前後において自然歩行を行い、固定撮影する。その後、動画解析ソフトを用いて①ストライド長②立脚相時間③遊脚相時間をそれぞれ非麻痺側、麻痺側から抽出し介入前後を比較した。
見られる私(セラピスト)
おうちでリハビリ「ラシクアーレ」 理学療法士/田上綾香
【前研究】失語症のある方とのコミュニケーションに難渋したケースについて、会話が進むきっかけとなったのが「記憶を辿る行為」であったことを報告。森岡(2014)は、以下省略「目の観察は心を読みとるために重要である」と定義。コミュニケーションツールは、「共通の記憶」を探る行為なのではないかと考えた。今回課題として随意的な行動の発現を起こす為、対象者が映っている過去の思い入れ深い静止画・動画、全く他人の動画の計3種類をリハビリテーション前に見てもらう。その後の、表情・発言・活動性の変化を観察した。
マニュアルとハラスメントについて
歩行リハビリセンター HOKORU 理学療法士/浅井清尊
今日のわが国の社会情勢を鑑みると、経済効率優先の裏面として社会モラルの低下が強く問われており、職業倫理感の不足や欠如に起因すると思われる事故や事件が表面化し、職業倫理破壊が始まったと言われている。そのような状況でどのように新社会人教育を行うと一人前として患者への対応が出来るようになるのか、また教育する側とされる側のメンタルストレスを減少させ効率よく教育できるのか。今回はマニュアル作成から実行を通して弊社の新人トレーナーのメンタルストレスの変動について報告する。
懐かしさと私
おうちでリハビリ「ラシクアーレ」 理学療法士/田上綾香
今回、右片麻痺と運動性失語症のある患者を担当し、コミュニケーションが上手くとれず、リハビリテーション介入に困難を要した。私とのコミュニケーションを避け、表情が硬く、自発的な運動の呼びかけに対し首を横に振るなどの拒否反応が頻回にみられた。しかし記憶を辿れるような介入を期に笑顔や感動を表現するなど感情の豊かさがみられ始めた。次第に自発的な行動もみられたため、この行動変容の意味づけを考察したのでここに報告する。
他職連携の円滑化を図るには〜自宅間取り図を介して〜歩行リハビリセンターHOKORU 社会福祉事/小平千遥
今年度の介護報酬改定により自宅訪問による生活状況の確認が義務つけられた。そこで弊社は独自に自宅訪問調査票に工夫を加えた。利用者が社会参加を果たせるために日常生活の改善・QOLの向上を強く意識したプログラムを理学療法士に依頼し、生活相談員が自宅訪問調査を行っても利用者の状況を把握していることから自宅での効果判定をスムーズに遂行することが可能である。今回このような効果の見られた点について、生活相談員としての介入方法も含め自宅訪問調査の工夫を紹介する。